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不便さが生み出す、人同士の温かな交流 / 不便な本屋 店主・ざきさん

スマホやSNSの発達により、場所や時間を選ばずに手軽に人と繋がれる便利な世の中になった。しかし、コミュニケーションツールが進化し続ける一方で、誰かと心を通わせられるような、人同士の温かな交流の機会は減りつつあるのではないだろうか。

小田急線 祖師ヶ谷大蔵駅から徒歩2分の場所にある「不便な本屋」は、見知らぬ人との手紙交換を体験できる古書店だ。時代の流れに逆らった「不便」というユニークなコンセプトについて、店主のざきさんにお話を伺った。

ざきさん
「不便な本屋」店主。大学卒業後は看護師として病院での勤務を経験。2021年2月、書店スペースの運営を開始する。また、店を営む傍らエッセイやコラムなどの執筆活動も行う。

本を介して人同士を繋ぐ、不便な本屋

店内の書棚

「不便な本屋」は、ダイニングカフェ、b.e.park(ビー・パーク)内にある古書店。

書棚には、店頭で買取した書籍だけでなく、店主のざきさん自身の選書によって仕入れられた古書、ここを訪れる人によって寄付された書籍も並んでいる。カフェスペースに併設された店内では、食事や飲み物と一緒にゆったりと読書を楽しむこともできる。

「不便な本屋」という一風変わった店名の由来は、本を寄付した人と、その本を手に取る人を繋ぐ、ユニークでアナログな購入システムにある。

「当店では、人におすすめしたい本や思い入れのある本の寄付を受け付けています。持ち込みいただく際、推薦コメントや本にまつわる個人的な思い出、この本を手に取る方へのメッセージなどを自由に記入したPOPの作成もお願いしているんです。本を購入いただく方には、そのPOPをお手紙がわりにお持ち帰りいただき、本を読み終えたら、匿名で推薦者に宛てた感想のお手紙を書いていただきます。本とPOP、手紙の受け渡しは当店スタッフを介して行われるので、安心して見知らぬ人との手紙交換を楽しんでいただけるシステムになっています」

POPと手紙のやりとりは、店のSNSでも一部公開されている。投稿を見たことをきっかけに、遠方から足を運ぶ方もいるという。

不便さが生み出す温かな出会い

寄付された本とPOP

ありそうでなかった「不便な本屋」のコンセプト。POPと手紙を交換するというアイデアは一体どのようにして生まれたのだろうか。

「当初は、このカフェスペースにある50cm幅の棚一つ分のスペースをお借りする形で古本屋さんを始めたんです。限られたスペースでお店としての個性をどのように出していくかを考え抜いた結果、たどり着いたのがこのシステムでした」

さらに、自身の性格や人との繋がりに対する考え方も大きく影響したという。

「私自身、のんびりした性格なんです。SNSで人と繋がることは好きではあるのですが、もうちょっとゆったりとした人との交流ができないかな?と考えていました」

コロナ禍の中で、人との繋がりが希薄化し、孤独と向き合う時間が増えたという人も少なくないだろう。しかし、不便な本屋はいつでもそこにある。時間のある時にふらっと立ち寄り、気が向けばその場にいる人とおしゃべりをしてから帰る。そんな気軽さもこの店の魅力だ。

「お家で過ごす時間が増えたり、なかなか新しい交流が生まれづらかったりした時期に『気軽に話せる友達がいない人はどうなってしまうんだろう』と考えていました。社会が少しずつコロナ禍前の雰囲気に戻りつつある今、より強く感じるのは、『孤独を感じている人はずっといたんだ』ということです。お店を続けているなかで、誰と交流を持てばいいのかわからない人たちでも、本を介した活字でのやりとりなら気負わずに人との繋がりを感じられるという学びもありました」

「不便な本屋」の開店から約2年半が経った。ざきさん自身も、日々さまざまな本や人との出会いを経験できることに喜びを感じているという。

イギリスの可愛らしい絵本

「今ちょうど棚に並んでいる本は、大学生のお客様がイギリスに留学中、現地の古本屋さんでわざわざ買ってきてくださったものなんです。異国にいてもこのお店のことを覚えていてくれたことに感激しました。それに、誰かが読んでいた本が海を越え、また人の手に渡るというのも嬉しいことですよね」


書棚には選書や買取本も並ぶ

小説、詩集、エッセイ、絵本、アート、デザイン、カルチャー、ホビー関連の書籍が並ぶ書棚

店内スペースには、寄付された本だけでなく、ざきさん自身の選書で仕入れられた古本も並ぶ。自身がよく読む本のジャンルについては次のように話す。

「ノンフィクションはずっと好んで読んでいます。それから、最近では作家さんに限らず、一般の方が書いた日記をまとめた本というのが結構売られているのですが、それがすごく面白いのでよく読んでいますね」

店に置く本を選ぶ際は、ヘイトや差別的な思想に加担しない本を置くことを自身のルールとしているという。

「このお店を、そういった思想の入口にしてしまわないようにしようと最初に決めて、それだけはずっと守り続けていますね。それから、社会に触れられるような本は、自分が読みたいという意味も込めて置くようにしています。普段はちょっと言葉にはしづらいようなセンシティブなテーマでも、本でならじっくり勉強してみようと思えることってあるじゃないですか。そんな本を、少しずつ増やしていけたらいいなという思いがあります。私自身も、物事をフラットに見られるようにいろいろな本を読んで勉強しているところです」

ざきさんの選書と、訪れる人によって持ち込まれた本にはどことなく共通の世界観があるようにも思える。受け付ける本のジャンルを絞っているのだろうか。

「持ち込まれたものは、基本的にすべてありがたくお店に並べています。多分、コンセプトに共感していただいた方や、どこか似た考えを持つ人が集まったりするのかなと思います。あとは『お店の雰囲気に合った本を持ってきたよ』と言ってくださる方もいらっしゃるんですよ」

社会問題をテーマにした書籍も目立つ

また、古書の買取時に印象的だったエピソードも聞かせてくれた。

「ある日、たまたまお店の前を通りがかったというお客様とお話しをしていたんです。その方は、亡くなったお父様の遺品整理をしているものの、読書好きだったお父様が大切にしていた多くの本を、どこの古本屋さんに持っていくか悩んでいらっしゃったんです。お話をお伺いしているうちに『ここに置きたいです』と言ってくださって、少しずつ本を持ってきてくださるようになりました。その本が売れていく様子を見ていると、胸がいっぱいになります。亡くなった人とはもう会うことはできませんが、その人が大切にしていたものや、想いは今生きている人に渡すことができるんですよね。お父様の本には書き込みもあったのですが、書き込みがあるからこそ選んで買ってくださる方もいるんです。それもすごく嬉しくて。そのお客様に限らず、大切な本が次の人の手に渡るところを近くで見られるのは、楽しみであり、この仕事の面白さだと思います」

フリーペーパーやZINEの制作も行う

読書や書くことなど、活字が好きだと語るざきさん

書店を営む傍らエッセイやコラムなどの執筆活動も行うざきさん。店頭では、毎月一つのテーマに沿って書かれた短編のエッセイを集めたフリーペーパーを配布している。

「ここは広いお店ではないですし、新刊は置いていません。それでも、何かお店に来るたびに新鮮な気持ちで楽しんでもらえるようなことができないかな?と考えて思い付いたのが月に一度のフリーペーパーの発行でした。最初は軽い気持ちだったのですが、始めてみると見てくださる方も意外と多かったんです。同じテキストをnoteでも公開しているのですが、SNSのダイレクトメッセージで感想を送ってくださる方もいて。毎号、いろいろな人に協力していただきながら書いているのですが、『書きたい』と言って寄稿してくださる方がいることにも驚きました」 

フリーペーパーだけでなく、定期的にZINEも制作。自身の中でテーマにしていることが2つあるという。

「まず、ずっと書き続けているのが家族のこと、特に母との関係についてです。書いては違う、を繰り返しながら少しずつ書き進めているので、それをいつか形にしたいです。もう一つ、最近興味を持っているのが『労働』というテーマです。看護師として病院で働いた経験はあるのですが、企業で勤めるような一般的な社会人生活をこれまで経験してこなかったので、ずっと『働くこと』に興味があるんです。多分、社会というものを全然知らないんですよね。次に出版予定のZINEでは、1年前からいろいろな職場でバイトをしながら自分自身に起こる変化や、どんな場所で何が行われているのかを書き溜めたものをまとめています」

お店を続ける中で、心境の変化も

本の購入者から預かった手紙の一部

開店当初、手紙交換のシステムがここまで長く続けられるとは思っておらず、試験的な取り組みが上手くいかなければ、通常の古書販売に絞っていくつもりだったという。

「本当に不便なシステムなので(笑)、最初はこんなに続くとは思っていなかったんです。この活動って、本の寄付という人の善意で成り立っているものなので、そこに求めすぎるのは違うと思っていて。実は今もこの店の在り方を模索中なんです」

手紙の交換という形式をなくすとしても、読書会の開催などで交流の場を作り続けていきたいと語るざきさん。その想いの裏に隠れた本音を語ってくれた。

「多分、本屋さんがやりたいという気持ちとは別に、人と上手く交流することへの憧れのような気持ちがあるんだと思います。私、お話しをするのもあまり得意な方ではなくて、しゃべっている間に『これは言わない方がいいのかな?』とかいろいろと余計なことを考えてしまうんです。自分が上手にはできないからこそ、人と人のやりとりを近くで見られることに喜びや面白みを感じるのかもしれないですね」

お客様同士の不便な手紙のやりとりを見守り続けるなかで、ざきさん自身に心境の変化はあったかを尋ねると、次のように答えてくれた。

「ここに来てくださるお客様との出会いのなかで、たくさんの優しさに触れられた気がします。そんな経験を通じて、たとえ独りよがりに思えるようなことでも何かを続けていたら、応援してくれる人や好きになってくれる人もいるんだということに気が付かされました。

以前は、自分に自信がなくて、自分のやりたいことや気持ちに対して周りからどう思われるだろう?理解してもらえるだろうか?という気持ちが結構強かったんです。でも、温かい気持ちに触れているうちに、少しだけ自分がやっていることに自信が持てるようになった気がします」

この場所を必要とする人がいる限り、続けていきたい

慎重に言葉を選びながらお話される様子から、謙虚さと優しい人柄が垣間見える

最後に、今後の抱負について伺うと次のように語ってくれた。

「遠い夢ではありますが、間借りという形ではなく、どこかでお店を構えたいという思いがあるんです。不便な本屋に関しては、求めてくれる人がいる限り続けていきたいですね。また、古本だけではなくて、新刊や自費出版の作品も置きたいというのが目先の目標です。『今すぐ欲しい』が叶えば、ちょっとは便利になるかなと」

都会でせわしない日々を過ごしていると、いつの間にか身も心もすり減ってしまっていることに気が付く瞬間が訪れる。情報過多ともいえる現代社会で、あえて「不便」を楽しむことは、孤独を癒すだけではなく、心に余白をつくることにも繋がるのかもしれない。

ちょっと不便だけど心温まる、本を介した人との交流をぜひこの場所で体験してほしい。

店舗情報

不便な本屋

〒157-0072 東京都世田谷区祖師谷3-31-3

営業時間:土日 11:00~20:00 

     火~金 11:00~14:30、17:00~20:00(火~金は古本の購入のみ可能)

定休日:月曜日

公式note:https://note.com/fuben_na_honya

Twitter :  https://twitter.com/fuben_na_honya

Instagram : https://www.instagram.com/fuben_na_honya/

Online shop : https://fubennahonya.base.shop/

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nishimura

nishimura

コトのデザイン事務所/nocoto編集部ライター

ライター インタビュー記事・イベントレポートなど、形式・ジャンル問わず幅広く執筆しています。プライベートでは一児の母。

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