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訪れる人の心に灯りをともす絵本屋さん「絵本は人生をより豊かに彩るもの」/にこにこ書店 店主・岩田 亜紀さん

「子どもが読むもの」というイメージがある、絵本。しかし、人生において大切なことを教えてくれる、そんな大人の心に響く絵本も数多く存在する。

JR目白駅から徒歩13分の場所にある絵本専門店「目白のえほんや にこにこ書店」は、絵本と人をつなげる出会いの場だ。同店の店主 岩田亜紀さんに絵本の魅力や、お店への想いについてお話を伺った。

岩田 亜紀さん
「目白のえほんや にこにこ書店」店主。大学卒業後、大手都市銀行に入行。結婚を機に退職し、出産後に子育てを通して絵本に触れながら、10年ほど幼稚園・保育園に勤める。その後、公共図書館での育児コンシュルジュ業務、中古絵本店勤務を経て、2019年10月東京 目白に絵本屋を開業。2022年4月からは、月刊保育雑誌『Pot(ポット)』(チャイルド本社)で絵本コーナーの連載も開始した。

目白のえほんや にこにこ書店

店主の岩田さんが一冊ずつ丁寧に選んだ絵本が並ぶ書棚には、人をワクワクさせるような魅力が詰まっている。お客様一人ひとりの心に寄り添った選書が評判を呼び、近隣のみならず遠方から足を運ぶお客さんも少なくない。

仕事帰りや買い物の合間にも気軽にふらっと覗いてみようと思えるちょうどいい広さ、そして何よりも岩田さんの明るく優しい人柄がこの店の居心地のよさを際立てている。

年代や性別を問わず、みんなが楽しめる絵本屋さん

幼少期から絵本を読むことが大好きだったという岩田さん。長年、漠然と心に思い描いていた「将来、絵本に囲まれて過ごせたら幸せだな」という夢を叶える形で開店を決意。このお店から出る時、お客さんには笑顔でいてほしいという思いから、店名は「目白のえほんや にこにこ書店」に決めた。

にこにこ書店を訪れるお客さんの中には「ここにある本は何か違う」と口にする方も少なくない。ロングセラーやベストセラーも押さえつつ、初めて出会うような絵本や、大人の記憶の片隅に辛うじて残っているような懐かしの作品、季節感を意識したものなど、知名度やジャンルを問わない幅広い作品が常時1,000冊ほど置かれている。

「訪れていただく方に、絵本の楽しさに出会うきっかけを作りたいなと思っています。絵本好きの方はもちろん、絵本には縁遠いような方にも来ていただきたいですね。『絵本屋さん=可愛い・子どものもの』と閉ざされた場所にするのではなく、みんなに開かれた場所にしたいなって」(岩田さん)。

子どもへのギフト選びのために、お店を訪れる方も多いという。贈る人・贈られる人が嬉しくなるようなお店づくりを心掛けているという岩田さんは、相手のことを想いながらじっくりとギフトを選ぶそのプロセスにも価値があると考える。

「選ぶ時間も渡す相手への贈り物になると思うんです。自分の目で選ぶことって愛情ですよね。そういう時間を大切に思ってもらえるような店でありたいです。だから、実際にお客さんから『にこにこ書店で一緒に選んでもらった絵本は本当に特別な感じ』と言ってもらえると、すごく嬉しいですね」(岩田さん)。

棚づくりの際に思い浮かべるのはお客様の喜ぶ顔

お腹の中にいる赤ちゃんからシニア世代の方まで、幅広いお客様の信頼や期待に応えることを意識したラインナップにしているという書棚。お店に並べる本の選び方について岩田さんは次のように語る。

「もちろん、自分自身が心ときめく推しの作品もありますが、手にしてくれる人が喜んでくれる姿を想像して選ぶことが多いですね。お客さんから『こういうのありますか?』と聞かれた時、喜んでもらえるようなものを提案できるよう、いろいろなシチュエーションを想像しています。 例えば、同じお誕生日の絵本でも、赤ちゃんや小さいお子さん向け、もうちょっと大きいお子さん向け、大人向け、とセレクトするものを分けていて。それから、お店にいらっしゃったお客様の言葉をヒントに考えることもありますね。素敵だなと思う新刊が出たら、『誰かと分かち合いたい』という気持ちで置くこともあります」(岩田さん)。

子どもも大人も夢中になれる、絵本ならではの魅力とは

絵本には、大きく分けて3つの魅力があるという。

人生に彩りが生まれる

「絵本って、一般的には『読んでも読まなくてもいいもの』じゃないですか。でも、やっぱり美しい絵や、研ぎ澄まされた言葉は、1冊1冊が芸術ですよね。それを日常的に簡単に手に取れるのは素晴らしいことだと思うんです。誰でも手に取って読める。その人なりの解釈で楽しめる。どんな人も受け入れてくれるような懐の深さが絵本にはありますよね。その後の自分を強くするというか、世界を広げるきっかけにもなっていると思うんです」(岩田さん)。

どんな時代にもどんな場所にも、一瞬で連れて行ってくれる

「どんな時代や場所にも一瞬で連れて行ってくれるのは、絵本の魅力の一つですね。 作者と同じ時代に生きていなくても、同じ感覚で心の機微や言葉にならない思いを分かり合える。行ったこともない国の人が描いた、言葉も色使いも新鮮に映るような絵本でも共感できる。それって素晴らしいことだと思うんです」(岩田さん)。

限りある子育て時間をもっと楽しいものにしてくれる

「この仕事をしていると、『お子さんにどういうものを読んでいましたか?』と聞かれることもあるんですが、正直もう全部忘れるくらい、毎日が必死でした(笑)。それくらい忙しくて大変な毎日の中でも、絵本だからこそやってあげられることがいっぱいあると思うんです。子どもって時々、行っていない場所でも絵本で見た場所のことを『ママと行った』と言うことがありますよね。子どもは絵本を通してさまざまなことを体験しているんだと思います。ママと読んだことも立派な思い出なんです。子どもと一緒に絵本を読むことで『私たちって楽しく過ごせているよね』と、親が自分自身を肯定して認める気持ちにもつながると思います」(岩田さん)。

毎日が奇跡の連続のよう

2019年10月に店を開業してから、およそ3年半が経過した。オープンのわずか半年後にコロナ禍に入り、お店のあり方に悩む瞬間もあったという岩田さん。しかし、この店は近隣の住民にとって心を解きほぐしてくれる憩いの場のような存在となった。改めてこの3年半を振り返ると、毎日が奇跡のような出会いの連続だったという。

「ネットで簡単に本が買える時代に、わざわざこの小さなお店に足を運んでくださるのがありがたいですよね。本当に毎日が奇跡の連続だと思っています。それから、絵本作家さんや編集者さんが『絵本の原画展を開催してほしい』と言ってくださるのも、とても嬉しいです。ちょうど先日までは鳥の絵本の原画展をやっていたんですが、SNSから見つけてくださった愛鳥家の方が目白庭園の鴨を見に来たついでに、お店に足を運んでくださったんです。いろいろ鳥のお話をお伺いできて、自分の知らなかった鳥の世界に出会わせてもらったようでした。鳥の絵をお目当てに来てくださった方が、絵本に出会って『この本屋が好きになりました』と言ってくださることもありましたね。このお店が絵本の楽しさを知っていただくきっかけになれたのであれば、とてもありがたいことだと思います」(岩田さん)。

店内では、同じタイミングで訪れたお客さん同士が会話を弾ませることもめずらしくない。絵本を通じた人と人との交流の場となる、そんなお店に流れる温かい空気感もこの店の魅力だ。

一人ひとりに寄り添った選書サービスが評判

店頭では、子どもへのギフトや自分自身の〝心の栄養〟になる絵本を求める方から、おすすめの作品を尋ねられることも多いという。岩田さんは、その方が興味を持っていることやその日の気分、自宅の書棚に並ぶ絵本を伺いながら、一人ひとりに合わせた絵本の提案をしている。贈ったギフトを喜んでもらえたという報告が聞けた日には「涙が出るほど嬉しい」という。

電話やメールでヒアリングした内容から選書を届ける「にこにこ絵本のお届け便」は、コロナ禍でお客様のために何ができるのかを考え、3年前に開始したサービス。お客様の個人的なお悩みやリクエストに寄り添った選書は評判を呼び、今では遠方に住む方からも定期的に依頼の連絡が入るほど、人気のサービスとなっている。

「どういうものだったらその方が元気になるかな?と考えながら、私の人生経験や最新の絵本情報の中から最適なものを選んでおすすめしています。そんな本を選ぶ過程を面白がってくれて、『提案してほしい』と依頼してくださる方がいらっしゃるので、細々ですが続けられています」(岩田さん)。

店外での読み聞かせ活動を続ける理由

岩田さんは、近隣の保育園や老人介護施設から依頼を受け、絵本の読み聞かせ活動も積極的に行っている。お店の中だけではなく、店外での活動にも力を入れる理由について、こう話す。

「近隣同士でつながって、地域のみんなが明るくなれたら素敵だなと思うんです。自分の住む町が元気で明るいとやっぱり嬉しいじゃないですか。子どもが生まれて生きていく場所に、いい大人がたくさんいるのも素敵ですよね。おこがましいですけど、地域と共にあるようなお店でありたいという思いもあって、続けています。それに、皆さんと絵本を分かち合える読み聞かせは、私にとっても楽しい時間なんですよ」

絵本の魅力を伝えることが、より良い未来につながれば

絵本の力を信じる岩田さん。今後の抱負について伺うと、次のように語ってくれた。

「これからも『絵本って楽しいんだよ』ということを伝えていきたいです。絵本を読んで、想像力豊かな人が増えたら、それが良い世の中になるきっかけにもなるんじゃないかなと思って。壮大な話ですみません(笑)。でも、想像力が豊かになることで、相手を思いやれる人も増えるかもしれないと思うんです。子どもたちにより良い未来を渡せる、明るい未来であってほしいので、私は、子どもたちや子どもに絵本を手渡す人たちと、この場所で過ごせたら幸せですね」

この場所から、優しい笑顔の輪が広がっていくことを願いたい。

店舗情報
目白のえほんや にこにこ書店
〒161-0033 東京都新宿区下落合4-26-13 目白金井ビル
TEL: 03-3565-6232
店舗HP: http://www.nikoniko-books.com/
営業時間:11:00~20:00(水土日祝18:00)
定休日:月曜日(祝日は営業)

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西町 なごみ

西町 なごみ

コトのデザイン事務所/nocoto編集部ライター

ライター/ディレクター インタビュー記事・イベントレポートなど、形式・ジャンル問わず幅広く執筆しています。プライベートでは一児の母。

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